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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(オ)782号 判決

主文

原判決中上告人敗訴の部分を破棄する。

被上告人の請求を棄却する。

訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人富岡秀夫の上告理由について。

原審は本件栗立木は、もと訴外森川と訴外舟田の共有に属しておつたのであるが、森川は昭和二三年八月二六日その二分の一の持分を被上告人に売り渡し、被上告人は立木の伐採造材に着手した。他面これより先き同年八月九日上告人は本件立木全部を右舟田及び森川から買受けたものであつて、本件立木の二分の一の持分に関する限り被上告人と上告人との双方に二重に売り渡されたものであると認定し、原審認定の事実関係では被上告人は未だ本件立木の所有権取得を公示する明認方法を施したものとはいえないから、立木の所有権を第三者に対抗し得べき要件を具備したものとはいえないが伐採して枕木又は枕木原木となしたものについては被上告人を表示するための刻印を押してあることが認められるから、その部分に限り、立木のままの状態において対抗方法を講じた場合と異別に解する理由がないので、その部分の所有権取得を上告人に対抗できるものと判断して、その二分の一の持分について所有権の確認を求める被上告人の本訴請求を認容すべきものと判示している。

しかし、立木法の適用を受けない立木の所有者が明認方法を施さないうちに、伐採その他の事由により右立木が動産たる伐木倒木等となつた場合には、立木当時既に明認方法の欠缺を主張する正当な利益を有していた第三者に対する関係においては、伐木等の所有権をもつて対抗し得ないものと解すべきことは当裁判所の判例とするところである(昭和三三年七月二九日第三小法廷判決、集一二巻一二号一八七九頁以下参照)。そして原判決の前示認定によれば、上告人は立木当時既に明認方法の欠缺を主張する正当な利益を有する者であることは明白であるから、伐採後動産となつた伐木について仮令被上告人が自己を表示するための刻印を施したとしてもこれが所有権を上告人に対抗し得ないものと解すべきである。然らば、原判決はこの点において破棄を免れないものであつて、当裁判所は原審の確定したる事実に基づき裁判をなすに熟するものと認め、民訴四〇八条、八九条、九六条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

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